浦安LOHAS
 
 

2009年3月号


最近のロハスな映画

2008年は5月にドイツのボンで開催された生物多様性条約第9回締約国会議、7月に開催された北海道洞爺湖サミットなどにより、「環境」への関心が高まった年。また、サブプライムローン問題に端を発する米国経済の急速な悪化により、資本主義体制への信頼が揺らぎ始めた年でもある。昨秋以降、グローバル資本主義の行き過ぎを分析・批判するビジネス書が山のように出版されているが、内容はいずれも大同小異であり、『資本主義は欲望を無限に拡大する。我々は「知足」を学び、自然環境にも配慮しなければならない。我が国古来の美徳を取り戻して日本を再生し、これを世界へ向けて発信することで、日本人は21世紀のリーダーになるべきである』といった主張が代表的なところであろう。

こうした時代気分を先取りした感があるが、映画の世界でもここ1年余り、ロハス的なテーマを扱った作品が増え、観客にも支持されているように思われる。今回はそうした映画をピックアップしてみた。見逃された作品があれば、劇場で、もしくはDVD等でご覧いただくようお勧めしたい。

地球環境について考える

約50億年前、地球に巨大な小惑星が衝突した。地軸が太陽との公転面に対して23.5度傾いていることは良く知られているが(地球儀を見れば一目瞭然)、それはこの天文学的事故の衝撃により生じたものだという。しかし、この傾きが地球にダイナミックな景観や、季節、気候の変化をもたらし、生命の誕生と営みに不可欠な舞台を創り上げたのだ。これこそ「奇跡の物語」といえよう。
「アース」(2008年1月日本公開)は、この奇跡の足跡をたどり、北極から南極まで壮大な旅を続ける。英国BBCが5年の歳月を費やして製作したドキュメンタリー映画である。ただ映像が美しいだけではない。地球温暖化の影響を受けながらも、氷の大地でたくましく生きるホッキョクグマの姿などを通じて、環境保全にも目を向けさせられる。

環境破壊への警鐘をもたらす映画として、「クローバーフィールド/HAKAISYA」(08年4月)や「地球が静止する日」(08年12月)などのSF作品も公開された。
「クローバーフィールド/HAKAISYA」は現代版の「ゴジラ」であり、環境破壊によって誕生し、人類に復讐する怪獣映画の系譜に連なっている。全編ハンディカメラで撮影された圧倒的な臨場感と緊張感の演出技法は、公開当時、大きな話題となった。

「地球が静止する日」は『人類が環境破壊を自らの手で止めなければ、地球のために滅亡させるしかない』と宇宙人(キアヌ・リーブス)が警告に来る話だが、これは1951年に公開された「地球の停止する日」のリメイク版。オリジナル版では、核兵器を開発した人類が他の惑星を攻撃しようとするのを止めさせようと宇宙から平和の使者が飛来する話であり、テーマはかなり現代的にアレンジされていた。

ディズニーの「WALL・E」(08年12月)も、環境悪化した地球を見捨てて人類が宇宙へ旅立った後に残され、700年もの間、ゴミの山を整理してきたロボットWALL・Eの物語であり、子供と一緒に楽しみながら、環境問題について自省を求められる作品であった。

自然の美しさを愛でる

同じくディズニーの「ティンカー・ベル」(08年12月)は、「ピーターパン」に登場する同名の妖精が主人公。妖精たちは季節の変化をもたらす存在として描かれる。本作は4部作の第1弾に当たり、ティン・カーベルの誕生と「春」の訪れをテーマにしている。季節が移り変わることの大切な意味に気付かせてくれる作品。今後もほぼ1年ごとに「秋」「夏」「冬」をテーマとし、彼女の成長物語が制作される予定である。ピーターパンとの出会いがいつ描かれるのも、興味深いところである。

ドリームワークスの「ビー・ムービー」(08年1月)は、擬人化されたミツバチが主人公のアニメ。大学を出て蜂蜜工場に就職したミツバチのバリーは、せっかく作った蜂蜜が人間たちに横取りされている事実に気づく。そこで人間相手に裁判を起こし、蜂蜜を自分たちの元へ取り戻すのだが、その結果、ミツバチたちは働かなくなり、世界中の花が枯れてしまう…。いささか人間にとって都合の良い視点からではあるが、自然界のバランスについて学べる楽しい作品である。

「崖の上のポニョ」(08年7月)の大ヒットも記憶に新しい。宮崎駿といえば、エコロジカルな作風で知られ、ほとんどのアニメ作品が「ロハス風」ともいえる。ただし、本作は対象年齢を下げた分、「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などに比べると、メッセージ性は希薄といえるかも知れない。

アニメ作品が続いたが、矢口高雄原作の昔懐かしい漫画の実写版「釣りキチ三平」も現在公開中。三平役を「天才子役」で名高い須賀健太がひょうひょうと演じている。「おくりびと」でオスカーを獲った滝田洋二郎監督により、漫画の雰囲気を壊さずに映像化されており、秋田や山形でロケした山や渓谷、河川の美しさも格別である。

自然の風景を織り込みながら、幻想的な物語を紡ぎ上げたファンタジー映画の秀作として、「テラビシアにかける橋」(08年1月)と「スパイダーウィックの謎」(08年4月)もここに挙げておきたい。特に、「テラビシア」は必見の名作である。「スパイダーウィック」は妖精もので、主人公を傑作「チャーリーとチョコレート工場」(05年)や感動作「奇跡のシンフォニー」(07年)の主役を演じた名子役フレディ・ハイモアが演じている。

スローライフに憧れる

舞台が島あるいは田舎町というのも、ロハス的生活、スローライフを描いた作品の定番の設定である。2009年に入ってから「マンマ・ミーア!」(09年1月)、「カフーを待ちわびて」(09年2月)、「ホノカアボーイ」(09年3月)と、そうした傾向の作品が集中的に公開されている。

「マンマ・ミーア!」は70〜80年代のポップス界をリードしたABBAのヒットナンバーをもとに創作されたミュージカルであり、本作はその映画化。シアター内で歌って踊りながら観る特別上映まで用意されたほど、明るく楽しいドラマである。碧い海、白いホテルに丘の上の教会、咲き誇る花々…ギリシャの小さな島が舞台となり、母娘(メリル・ストリーブとアマンダ・セイフライド)2代の結婚騒動が描かれる。

「カフーを待ちわびて」も沖縄の小さな島が舞台。突然、島の若者(玉山鉄二)の元へ訪ねてきた訳あり美少女(マイコ)の謎と島の観光開発問題が絡み合う。この男女を見守るユタ(沖縄の民間巫女)のおばあちゃんが良い味を出している。原作は、第1回日本ラブストーリー大賞受賞した原田マハの小説。「カフー(果報)」とは、沖縄の言葉で「良い知らせ(果報)がありますように」、転じて「幸せになりますように」という意味であり、主人公の若者が飼っている黒いラブラドール犬の名前でもある。

「ホノカアボーイ」はハワイ島北部に実在する田舎町が舞台。大学を休学してホノカアの映画館へ住み込みバイトを始めた若者(岡田将生)と、彼を取り巻く日系人たちとの交流をほんわかとした視線で描く。倍賞千恵子が演じる料理上手なおばあちゃん、喜味こいしが演じる助べえ丸出しのおじいちゃんが実に可愛らしい。こんな老後が迎えられたらと、とてもうらやましくなる。
これらの作品を観ていると、『老後をどこで、誰と暮らすか』というのは、ロハスの最大のテーマであるような気がしてくる。

食の安全性や食育について学ぶ

「ファーストフード・ネイション」(08年2月)の舞台となるのは、カリフォルニア州アナハイムに本社を持つハンバーガー・チェーン「ミッキーズ」。この命名だけでも、十分に刺激的である。ある分析の結果、ハンバーガーのパテに大量の大腸菌が含まれていたことが判明し、マーケティング担当者が調査を始めると、そこには工場の衛生問題、店舗における店員の意識、さらには移民問題、環境問題など、様々な要因が渦巻いていた…という現代的な危機感に満ちた内容である。

「ブタがいた教室」(08年11月)は、「食育」や「いのちの授業」が叫ばれる前、総合的学習時間もまだなかった1990年の大阪の小学校が舞台。ある新任教師(妻夫木聡)が『ブタを飼って、育てた後、食べる』という実践教育を行った実話を映画化した作品。Pちゃんと名付けられたブタは子供たちに愛され、単なる家畜を超えたペットとなっていく。2年半の飼育の後、子供たちの卒業を控えて、Pちゃんの処遇を巡っては大論争が展開される。果たして子供たちは、Pちゃんを食べることができるのか? 人間の命についても、改めて考えさせられる感動作である。

Written by 鷹羽 一風


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