浦安LOHAS
 
 

2008年2月号


浦安でロハスについて考える意味

地理的・歴史的に見て、浦安で「ロハス」について考える、というのは大変意義深いことに思われる。奇しくも本年(2008年)は「浦安事件(本州製紙工場事件)」の発生から丸50年が経過する節目の年に当たり、改めて我々の生活環境や住民の営為について再考するのによい潮時だと思うのである。

この連載も始まったばかりなので、まずはフレームワークを整理しておきたい。

ロハス(LOHAS:Lifestyles Of Health And Sustainability)という言葉は、1990年代の終わりにアメリカ合衆国コロラド州ボールダーで誕生した。「ロハスの聖地」と呼ばれるボールダーは、ロッキー山脈の麓に位置し、標高1,600m、大自然に囲まれた美しい街だという。高橋尚子選手に代表されるマラソンランナーが高地トレーニングをする場所としても知られている。名門コロラド大学を中心とした学園都市であり、文化の香り高く、約10万人の市民の平均年齢は30歳未満。全米アンケートの「人口20万人以下の都市で、最も住みたい街」でトップ10常連という(その部分だけは浦安にも共通するかも知れないが)、とにかくため息が出るような憧れのユートピアとして、各方面で高く評価されている。
ロハスは当初、コロラド州で創業したガイアム(GAIAM)というWebショップを主力とする企業が、環境に配慮した商品を販売する際にこれらの商品の総称として使用し始めたコンセプトであり、その後、ニューヨーカーの間に広まり、全米のトレンドともなった。

Lifestyles Of Health And Sustainabilityを直訳すれば、「健康と地球の持続可能性を志向する生活様式」となるが、上述のとおり元来はマーケティング用語である。NPOローハスクラブによれば、5つのセグメントに分類され、各々に次のような商品・サービス群が対応するという。

  1. サスティナブル・エコノミー(持続可能な経済):環境配慮型住宅、再生可能エネルギー、代替エネルギー、省エネ商品、まちづくり、都市計画、資源を有効活用する製品、社会的責任投資、代替交通、環境経営など
  2. ヘルシー・ライフスタイル(健康的な生活様式):オーガニック食品、自然食品・飲料、サプリメント、天然成分を使ったパーソナルケア、オーガニック繊維製品など
  3. オルタナティブ・ヘルスケア(代替医療・自然医療):鍼灸、漢方、アロマテラピー、健康・ウエルネス、ホメオパシー、ホリスティックな予防、補助医薬など
  4. パーソナル・ディベロプメント(自己開発):マインド・ボディ・スピリット関連製品、自己啓発・精神性向上のための教材、ヨガ、フィットネスなど
  5. エコロジカル・ライフスタイル(環境に配慮した生活様式):環境配慮型住宅、インテリア、家庭用品・オフィス製品、エコツーリズムなど

こうして並べてみると、一口にロハスといっても、ごく身近な衣食住から健康管理、精神世界、環境問題まで、実に裾野の広いコンセプトであることが理解できる。
したがって、ロハスという言葉を耳にしたとき思い浮かぶイメージが各人各様であってもおかしくない。とは言うものの、やはり多くの方々が『スローライフ』に象徴されるような晴耕雨読の暮らしぶりや、伝統文化の見直し、再生といったイメージを共有されるのではないか? ロハスをベクトルで表現すれば、空間的には『都会→地方』志向、時間的には『近未来→近過去』志向を持つ生活哲学、という視方もできよう。

地球温暖化の危機が各界で喧伝される昨今、我が国では江戸の生活文化を見直そうという主張をしばしば耳にする。江戸時代の日本を訪れた外国人は、町の清潔さに一様に驚いたという。例えば、当時のロンドンは人口86万人。ヨーロッパ最大の都市であったが、町中に汚物があふれ、何度もコレラが大流行した。一方、江戸では古紙や古着の類はもとより、溶けたローソクやかまどの灰まで、使えるものは何度でも再生し、徹底的に使い回した。ゴミも燃料、肥料、埋め立て用に区別し、きれいな街並みを維持していた。つまり、究極的なリサイクル社会が成立していたのである。しかも、人口100万人。江戸は世界最大の都市でもあった。
「大江戸リサイクル事情」などの著書で知られる作家の石川英輔氏は語っている。「江戸時代の生活というと、何か遠いことのように思われるかもしれませんが、実際は私たちがつい最近までやってきた生活とそんなに違うわけじゃありません。少なくとも、今の40歳代の人達が子供のころまでは、まだ身近にあった生活とそう変わりはないのです」

郷土資料館浦安はもともと遠浅の海に面した小さな漁村であった。東西線の開通以前は「陸の孤島」と呼ばれ、川1本で隔てられているだけなのに、東京から見ると長きにわたって「地方」×「近過去」のベクトルが感じられる土地柄であり、急速に近代都市化が進む東京の傍らにあって、最後まで江戸文化的な匂いを残した風土、すなわちロハスの地であった。
なお、一昔前の浦安について学習したい方には、以下のサイトをお奨めしたい。もともとは小中学校の教材として使われているコンテンツだが、非常に分かりやすくまとめられており、大人の入門者にも最適のテキストである。
「浦安郷土学習BOX」http://www.city-urayasu.ed.jp/kb/index.html
※写真は浦安市郷土資料館


その浦安に最大の転機が訪れたのが、50年前である。1958年4月、本州製紙江戸川工場から旧江戸川へ流された排水による魚介類の大量死滅が発生し、6月には工場に押しかけた漁民との間で大乱闘となる騒ぎに発展した。この事件がもとで、「公共水域の水質の保全に関する法律」と「工場排水等の規制に関する法律」が相次いで公布され、漁業権の放棄と埋め立て、公害のない新たな街づくりへと向かう流れが一気に本格化し始めたのである。
この埋め立てにより、浦安の面積は4倍になったが、豊穣の海は奪われ、ロハスな風土も大きな制約を受けることになってしまった。現在では、住民たち自らが意識的に選択し、追い求めないと、ロハスの根底にあるナチュラル、オーガニック、ヘルシーなどの要素や3R(リサイクル、リユース、リデュース)の徹底などを生活環境の中に採り入れることは難しい。黙って待っていても、ロハスな生活は取り戻せないのである。

日の出おひさま農園現在の浦安には、千葉県内にありながら「東京」を名乗る日本最大のリゾートが存在し、住民たちも「千葉都民」と呼ばれている。浦安は「人口半島」だが、豊かな「自然半島」である房総エリアに裏で支えられた、「東京に一番近い千葉」である。我々は、そのことに感謝し、誇りを持つべきだと思う。
浦安にはボールダーのような恵まれた大自然は存在しないが、浦安の歴史と千葉の風土に学び、それらをニューヨーカーのように上手に都市生活の中に採り入れて行くことも可能なはずである。浦安が日本におけるロハスの聖地となり、房総と東京を結びつける接点になったらどんなに素敵だろう、と夢想する。
本稿の最後に、ロハスを学ぶ課程の1つとして、グリーンツーリズム(農村を訪ね、収穫体験をしたり、農家に宿泊したりするツアー)やブルーツーリズム(漁村を訪ねる。以下同様)を奨励したい。以下のサイトなどをご参照いただければ幸いである。

http://www.pref.chiba.lg.jp/nourinsui/03anzen/greenblue/
※ 写真は、 日の出ふれあい農園で収穫されたサツマイモ

Written by 鷹羽一風


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