南の島ひとりUNKO
世の中お盆真っ盛りというわけで、今回は仕事の話からちょっと離れて、夏休みバージョンのお話をご用意致しました。
これは実話ですが、ちょっと汚い描写が出てまいります。
お食事中の方、UNKOネタがお嫌いな方は、くれぐれもお読みにならないようお願い申し上げます……。
それは、私がダイビングを始めてから2度目の夏のことでした。
経験本数(ダイビングは使用したタンクの本数で経験数を数えます)は、今でこそ200本程度のベテランの域に達していますが、当時は30本をやっと超え、中世浮力(水の中で浮きも沈みもしないで漂っていられる事)もとれる様になり、スキルも安定してきて、それ迄『潜る事に必死』だった時期から、周りの魚や景色等を見て楽しめるという最も『夢中になる時期』を迎えていました。
ライセンスを取ろうと思ったキッカケが沖縄の久米島での体験ダイビング。
ライセンスを取って最初のファンダイビングが沖縄のケラマ諸島という具合に、すっかり沖縄の魅力に取り憑かれていた私は、友人ダイバーと3人で、世界でも珊瑚の美しい事で有名な、沖縄県のケラマ諸島へダイビングへワクワクしながら出かけました。
ダイビング雑誌や、ダイビングショップ等で事前に情報を集めまくった私達は、旅行時期を『沖縄の梅雨明け直後、オンシーズン直前を選び抜き』、この事前の入念な計画が功を奏して、宿もサービスも貸しきり状態で快適な毎日を過していました。
梅雨明けした海は勿論最高でしたし、毎日民宿のおばちゃんが作ってくれる「サーターアンダギー」という、揚げドーナツのような沖縄のお菓子に舌鼓を打ったり、夜中の11時位に、浜辺の売店(年中開いているし、何故か深夜もやっている謎の店)へかき氷を食べに行ったり、「黒糖ジュース」(茶色くてドロドロしてて、しかも超甘い)を無理矢理勧められて飲んでゲロゲロしたり、ついでに今ではすっかり有名になった「ゴーヤジュース」という「青汁」も真っ青(多分)という苦いジュースも「暑さバテには一番効くから」と、民宿のおばちゃんに飲まされたりしていました。
確かに夏バテには凄くいいらしのですが、とてもじゃないけど飲めません。グビグビ飲んじゃう現地の人々を見て「沖縄の長寿の秘密」をひとつ知った気がしました。
そんなわけで海も陸も、充実した毎日を過していました。
3日目の夜、ダイビングというのは潜っている時間が少ない割に(大体1回最高1時間で、1日2回潜るのが普通)非常に疲れるスポーツなので、部屋でゴロゴロしながら昼間のダイビングの話を3人でしていると、オーナーがフラリと部屋へやってきて、
「どう?明日は早朝ダイビングしてみる?」
と声を掛けてくれました。
『夜光虫が朝日にキラキラ輝いて、金色に見える』
というのです。何だかよくわからないけど、凄そうです。
「是非、是非お願いします!!」
そう言うと、3人は翌日に備えて既に日課と化していた「深夜のかき氷」を止め、早々に就寝したのでした。
翌日、朝5時に起き6時には港を出て、朝靄の凪いだ海原を1時間程行くと、前方にポコッと大きな一枚岩のような物が見えてきました。
船はその岩の裏側に周ると、大きな岩から少し離れた所に波間から少しだけ岩が覗いている場所があり、そこに船を停めました。
そこは、『ツインロック』というポイントでした。
「うしし。楽しみ〜!!そんじゃあ準備を……」
と、ワクワクしながらタンクを起こそうとしたその時、突然私のお腹が
『ピ〜ドンドン、ピ〜ヒャララ〜♪』
と鳴り出したのです。
「ゲッ!!マ、マジッ!?ど、どうしよう……!」
私は、タンクを握り締めたまま凍り付きました。
一旦潜ってしまったら、1時間は上がってきません。1時間も我慢なんて、とても出来そうもありませんでした。
着々と準備を進める友人達を横目に、弱り果てた私は、腹を決めてオーナーに進言しました。
「オーナー、……うんこしたくなっちゃった……」
「えッ?今!?ガマン……は出来ないよなあ〜」
と言いながらキョロキョロしたオーナーは、やおら波間に見え隠れしている岩を指差して、
「あの後ろでやってこい」
と言うのです。
「えッ?!あそこで!?」
ボートの下は水深何百メートルの海です。周りは360度なぁんにも見えない絶海の孤岩でした。
器材を着けずにこの海に入るのは、さすがにちょっと勇気が要りましたが、贅沢は言っているヒマも余裕も最早ありません。
私のお腹のビッグウェ〜ブは、ますます絶好調な様相を呈してきていたのです。
私は意を決して、足ヒレとマスクとシュノーケルだけ着けて海に入り、岩の後ろまで泳いでいきました。ボートは私から死角になる位置に移動してくれました。
岩に手ごろな持ち手をみつけ、水着を脱いでがんばってはみたのですが、如何せん視界が広過ぎます。360度丸見え状態では落ち着かないし(←そういう問題か?)、第一寄せては返す波に身体が緊張してしまい『ビックウェーブは絶好調』なのに、どうしてもできないのです。
しばらく頑張ってみましたが、『早くしなくちゃ』という焦りがつのるばかりで、結局上手くいきませんでした。
私は、ここでの挑戦を諦めると、水着を着直して船まで泳ぎました。
そして、ハシゴを下ろしてくれたオーナーに
「あの岩場に上陸したい」
と申し出たのです。オーナーは、
「岩場の手前30m迄、岩が水面下に岩が迫り出しているから、船は着けられない。泳いでいくしかないぞ」
と言いました。私は勿論そのつもりでしたので、一端船にあがると、
使い捨てカメラのハウジングから使い捨てカメラを取り出し、自分の着替えバッグにいつも入れている トイレットペーパー(お腹が弱いので、イザという時の為に(笑)いつも常備していた)を取り出すと、グルグル巻にしてハウジングの中に詰め込みました。そして、
「そんな使い方があったのか!!」
と感心するオーナーを船に残し、岩場目指して泳ぎ出しました。
そして無事に上陸し、バッチリ目的も達成したのです。
やっと心にゆとりの出来た私は、少しでも早く皆の元へ戻ろうと、フィンを履き始めました。すると、どこからか
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ
という音が聞こえて来たのです。
「??」
と思って空を見上げると、何とそれは『海上保安庁のヘリコプター』でした。この岩場を使って上昇気流の中でヘリを静止させる訓練をする為にやってきたのでした。
ヘリは岩場にいる私を発見すると、みるみる高度を下げ、鼓膜が破れるかと思う様な大音量の、馬鹿デッカイ拡声器で
「救助が必要ですか〜ッ!?」
と聞いて来たのです。
冗談じゃありません。今海上保安庁の人が岩場に降りて来られたら、私の「今迄の行状がまるまる全部」公の書面に記録されてしまいます。
嫁入り前の乙女なのですから(←そういう問題か?)、それだけは何としても避けなければなりません。
私は、両手で大きくバッテンを作ると
「何でもありませ〜んッ!」(←そんな筈がない)
と声の限りに叫び、尚も超低空に止まるヘリからクルリ背を向けると、逃げるように海に飛び込んだのでした。
次号は9月1日に公開予定です。
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